中庸は凡庸
中庸とは凡庸のことだ。恐れや混乱をごまかしているにすぎん。悪魔の分別から生まれるあざむき、腰抜けの妥協だ。そんなものじゃ幸福にはなれん。中庸は甘口の連中や弁解がましい連中の思想、確固とした立場をとることを恐れる日和見主義者の思想だ。笑うことも泣くことも恐れる連中、生きることも死ぬことも恐れる連中のものだ。
------『やすらぎの戦士』(ダン・ミルマン著/上野圭一翻訳)より
やすらぎの戦士に出てくる登場人物、ソクラテスの言葉です。
「何事もほどほどが一番」、「極端に偏ってはいけない」といった中庸の精神を盾にして、生活習慣の改善を拒む凡人。
ソクラテスは弟子のダンに向かって、そうなってはいけないと色々な角度から言葉や態度で教え、諭します。
次の場面は食事に関して。
ぼくたちは歩きながら話をつづけた。ソクラテスが言った。
「ダン。こころの曇りを切り裂き、関門を見つけるにはな、ど偉いエネルギーがいるんだ。だから、どうしても浄化訓練や再生訓練をしなくちゃならん」
「もっとわかりやすく言ってくれない?」
「お前をバラバラに分解してきれいに掃除し、また元に戻すということさ」
「何だ。それならそうと最初からそう言ってくれればいいのに」
「人間としての基本的活動をすべてあらためることになる。動作、睡眠、呼吸、思考、感覚。そしてとくに食事だな。人間のあらゆる活動の中でも、食事はその土台づくりとして一番大事だからな」
「ちょっと待ってよ、ソクラテス。ぼくは食事のことでは別に問題はないんだ。贅肉もないし、まあまあ健康だしね。体力があることは体操が証明してくれている。多少のダイエットをしたところで何が変わると言うんだい?」
「お前のいまの食事でも……」
美しいかたちをした木の下に立ち止まり、朝日を受けて輝く枝を見あげながら、彼が言った。
「ふつうのエネルギー量は得られるだろう。だが、お前のような食事をしているとな、地に足がつかず、気分が不安定で、意識のレベルが低下し、からだが最高の力を発揮するのを妨げられるようになるんだ。お前みたいに場当たり的な食事をつづけていると、体内に毒性の残留物が蓄積されて、長期的に見れば寿命を縮めることになる。お前の精神的・感情的な問題の大半は、正しい食事に気をつかうだけでもかなり解決できるんだぞ」
「食事を変えたらエネルギーも変わるってわけ?」
ぼくは反論した。
「つまり、何であれ、カロリーを摂取すれば、それが一定のエネルギーになるわけだろ?」
「ふつうはそう考えられている。だが、それは浅薄な見解だ。戦士なら食べ物のもっと微妙な影響に気づかなくちゃな。地球が存在するこの系の主要なエネルギー源は……」
彼は両手で太陽系をあらわすしぐさをした。
「太陽だ。ところが、人間であるお前は」
「人間と認めてくれてありがとう」
「……いまのところ、太陽エネルギーを直接利用できるほどには進化していない。非常に限られた方法でしか〈太陽を食べる〉ことはできんのだ。もしそれができれば、消化器官が退化しちまって、下剤で儲けていた製薬会社はあがったりだ。いまのところは、太陽光線が蓄積されたもの、それがわれわれの必要とする食べ物だというわけだ……」
「正しい食事をしていれば、太陽エネルギーが最も直接的に利用できるわけだ。そのエネルギーが感覚を目覚めさせ、意識を拡大し、いざというときの集中力を高めてくれるんだよ」
「カップケーキをあきらめなければならないというわけ?」
「そうだ。カップケーキをはじめとするもろもろのガラクタをな」
(中略)
「ソクラテス。要するに、あんたは自然食を信じているわけだ」
通りを横切りながら、ぼくはそう言った。
「食べ物は信じるものじゃなくて、食べるものだ。言っとくがな、わしが食べるのは根も葉もある全体食ってやつなんだ。しかも、必要な量しか食べん。お前の言う自然食とやらを味わうには、本能に磨きをかけなければならん。ナチュラル・フードを食べるにはな、まずナチュラル・マンにならなきゃいかんのだ」
「ひどく禁欲主義的な感じがするね。たまには多少のアイスクリームぐらいはいいんじゃない?」
「ダン。お前のような甘ったれた〈ほどほど〉主義にくらべれば、わしの食事は一見厳格に見えるかもしれん。だがな、わしの食べ方はじつは最高の快楽なんだ。最も素朴な食べ物の味をフルに味わう能力をもっているからだ。いずれお前もそうなれるさ」
ソクラテスとダンのやりとり、ほんと、絶妙。
中庸を言い訳にしたくなったら、このソクラテスの言葉を思い出すことにします。
※ 関連記事:
やすらぎの戦士(2018.10.26)
食のあらゆるプロセスを楽しむ(2019.03.01)
※ この本『やすらぎの戦士』は1987年に筑摩書房から刊行されましたが、その後廃刊となり、1998年に『癒しの旅―ピースフル・ウォリアー』というタイトルで徳間書店からあらためて刊行されました。しかし、現在ではこの徳間書店の本も販売されていないようです。原書『Way of the Peaceful Warrior』は1980年の初版発行以来販売され続けていて、古典的名作として今でも人気があるというのに、日本語訳はもう古本でしか手に入らないというのはとても残念なことです。
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