内観法と軟酥の法
『白隠ものがたり―夜船閑話に寄せて』(おおいみつる著)という本を読みました。これは、臨済宗中興の祖と称される江戸中期の禅僧、白隠慧鶴(はくいん えかく)が修行を通して、成長していく姿を綴ったものですが、健康法といいますか、心と体のメンテナンスに役立つ方法も紹介されていましたので、今日はそれを取り上げてみたいと思います。
白隠は、二十代半ばで病に苦しみ、鍼灸や薬などに頼るものの、はかばかしい効果が得られず、死の影がちらつき始めたところで、意を決し、旅に出ます。どこかで自分の病を治す手立てが見つかるのではないか。そんなかすかな期待を胸に…。
発病時、白隠は駿河の国(静岡県)にいたのですが、そこからまず美濃(岐阜県)に向かいました。そして、美濃に逗留中、山城の国の白河村(京都市左京区)に、白幽(はくゆう)という仙人がいるとの噂を聞きつけます。この仙人は、論語、経文はもとより、天文学から医道に至るまで、驚くほど精通しているというのです。山の中の洞窟に住んでおり、人嫌いでめったに人には会わないが、白幽が口にする言葉は、蘊蓄(うんちく)にあふれていて、人々に気づきを与えるものらしい。白隠は、この人物が自分の病を治す方法を知っているに違いないと確信し、弱った体にむち打って、白幽の住む山のほこらを目指します。
白隠の病というのは、不安神経症(ノイローゼ)に加え、悪寒、胸の痛み、ひどい耳鳴りなどにも悩まされていたとのことで、肋膜炎か、初期の結核だったのではないかと言われています。そんな病状の人間が、静岡から京都まで、当時の庶民の唯一の移動手段である「自分の足」で旅をし、それも山奥の岩窟まで行くというのですから、相当な覚悟だったと思われます。
そして、幾多の困難を乗り越えた後、白隠はとうとう念願叶って白幽に会い、2つの秘法を伝授してもらった結果、病を克服しました。その秘法が、内観法と軟酥(なんそ)の法です。
【内観法】
- 何もかも、考えることは止める。心も身も空(むな)しうして横になる。
- 両脚を長く伸ばして、力を入れる。そして、元気を、臍(へそ)から下腹、腰や足、足の裏にまで充満させる。その上で、次のことを強く想念する。--- もともと自分は弱くもないし、病んでもいない、強健であり、崇高であるのが、本来の自分である!
- そして、下半身に元気が満ちてきたところで、その状態のまま、「須(すべか)らく、熟睡一覚すべし」
眠りにつく前に、丹田を中心とした下半身に力を入れ、自分の完全さを言い聞かせながらエネルギーを送ることがポイントみたいです。肉体的な作法とともに心を確定させることが肝要とのこと。
【軟酥の法】
こちらも自己暗示というか、イメージ療法のようです。軟酥というのは、当時貴重とされた、羊や牛の乳で作ったバターのことです。
- 軟酥を鴨の卵ぐらいの大きさに丸め、頭の上に乗せたとイメージする。
- 軟酥の味わいは実に微妙なもので、頭から徐々に下降し、五臓六腑から骨の髄まで体のことごとくを潤してくれる。
- この世の秘薬を集めて煎じ、それを浴槽の中に入れて、その中に臍(へそ)から下を漬けたと想像する。
よくスピリチュアル系の本などでは、太陽の光とか、宇宙のエネルギーを体に満たしたとイメージするように書いてありますが、これもその一種でしょうか。なんだかよく分からないけど、ものすごく力のある有り難いものが体の中を流れていく。私はそのように解釈してみました。
頭書の本を読めと最初に言ってきたのは、実は、私の母でして、母は去年、ひどい冷え性に悩まされていました。ところが、上記の内観法を試みたら、足がぽかぽかとして、血が通うようになったというのです。
それで、私も読んでみたんですが、最初はなんとなくピンと来ませんでした。伝記としては面白かったものの、健康法として実践しようとは思いませんでした。
ところが、年末年始の大食いで、体に老廃物をため込んでしまい、なんだか非常に重苦しい、息苦しい状態になり、ふと、内観法と軟酥の法のことを思い出しました。そして、下腹に力を入れて、活力に満ちあふれた自分をイメージしながら、深呼吸をしていたら、体の隅々にまで力が行き渡る感覚がよみがえってきました。
おかげで、年始の23%からなかなか落ちなかった体脂肪率が、今週はとうとう16%~19%のレンジに入ってきました。やはり体重や体脂肪率の増加というのは、運動不足も一つの要因だと思いますが、大元はエネルギーの滞りなのでしょう。気が循環すると、ほとんどの問題は解決してしまうのかもしれませんね。
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